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松山でアウトドアと園芸&研究

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カヤック漕いだり山登ったり 最近はまった庭弄り    本業は教育と研究ですが。

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ほとんど旬をはずしている話題ですが、乗りかけた船ということでもう少しだけ。

BMDL10から10000倍の暴露マージンを取れば健康上の危惧が心配されない、これについてわかりやすく書かれているサイト

農林水産省・食品中のアクリルアミドに関する情報・用語解説
MoE(暴露マージン)やBMDL(ベンチマーク用量信頼下限値)について、また10000倍の位置づけなど。

製品評価技術基盤機構・化学物質のリスク評価について-よりよく理解するために-5
ここらの考え方について分かりやすく説明。



また、この話題を取り上げられている方として ぷろどおむ えあらいんさんのところで、精力的に周辺も含めて調査されています。

9月の記事
10月1日の記事

MyNewsJapanの記事に関する裏取り調査については特にすばらしくまとまっています。この記事を参照した学生のレポートがあって、多分記者の偏見でねじ曲がってるのだろうとの予想はあっても(食品安全委員会の委員もそんなに馬鹿じゃない)裏取りは結構大変そうと思っていたところ、こちらの記事を見つけ、学生に紹介をしておきました。



安井先生のエコナと発がん物質グリシドール

こちらもわかりやすく書かれています。

2点ほど補足というか。

1.グリシドール脂肪酸エステル含有量

B君:ところが、花王エコナ中のグリシドール脂肪酸エステルは、菅野氏によれば370ppm(=mg/kg)という発表だったとのこと。どうも、ドイツのBfRが問題にした量の100倍も高かったらしい。

C先生:花王からの発表だと、次の図のように、91ppm(=mg/kg)らしい。BfR発表値の約30倍。ただし、-OHの一つが塩素に置換した化合物も同時に検出される可能性があるとのことなので、実濃度はさらに低いだろう。ドイツのデータを見比べると、15倍ぐらいかもしれない。


これに関しては、安井先生の勘違いのようです。

前記事でも紹介した当日厚生労働省配布資料[PDF] では

3-MCPDの分析 定量下限以下
3-MCPDエステルの分析 91ppm(3-MCPD遊離体換算)
Cl元素 定量下限以下 (3-MCPD3.1ppm以下と推定)
グリシドール 定量下限以下
グリシドールエステル 373ppm

グリシドールエステルを3-MCPDに換算すると125ppm、3-MCPDエステルの分析値とほぼ一致する。


となっています。安井先生の91ppmは3-MCPD換算での含量、菅野氏の370ppmはグリシドールエステルの含量、これをグリシドール換算すると約80ppm。こういう数値関係です。換算の間違えと、塩素分析も行っていることが未確認なことで、「甘い方向」に少しバイアスが入っています。

なお、3-MCPDは3-モノクロロプロパンジオールの略です。グリシドールのエポキシ基がHClと反応すると形成されます。

2.グリシドールの加水分解

水中だと加水分解が起きて、C-OHが2つという形に変化する。となると、分子全体は、グリセリンに戻る

というのがちょっと強調されているような気がします。

グリシドールに関しては、やはり同じ資料中で、14Cマーキングしたグリシドールを使ってのラットでの動力学研究の結果の概要が示されています。

供与したグリシドールの40~42%が尿とともに、10~12%が糞とともに排出。
投与、24時間後、72時間後ともに検査器官のすべてで放射能が検出。
検出されたグリシドールは無変化のグリシドールではなく、エポキシ基との反応を前提にすべき
放射能の最高濃度領域は、血液細胞、甲状腺、肝臓、腎臓、脾臓
最低濃度領域は、脂肪組織、骨格筋肉、血漿

また、広範囲に代謝という別の実験もあり、同定できない代謝基質に14Cが残る。
経口摂取では、胃での3-MCPD生成の可能性も。
人の胃液は、pHが実験動物より低く、反応が促進される可能性も。

試験管内では、グリシドールのエポキシ基とDNAの反応を確認
グリセリンへの加水分解も起きる。


画像ファイルでコピペが大変なので要点のみですが。加水分解されやすいから大丈夫なのでは、という過小評価につながりかねないので、一応写してみました。



で、こっからは勝手な推測交じりです。

エポキシ基を持つ化合物は、きっと不安定だろうという、化学者としての先入観がありますが、実験結果は全身に回るくらいには安定で、全身で反応するくらいに不安定、ということになりそうです。勝手な推測をすれば、アルコールと同じで、胃で吸収され消化器官で滞在する時間が短い、そういったことにより不安定そうな化合物なのに、血液に乗って全身に回る、といったことがあるのか、と思います。

グリシドール脂肪酸エステルの場合はどうでしょうか?

親水性はほとんどないし、分子も大きいので胃からの吸収はまず無いとみていいでしょう。脂肪と同じ代謝となりそうです。

脂質の代謝は、生化学の教科書まる写しで、脂質は胃ではなく胆汁の作用のある小腸で加水分解され、脂肪酸と2-アシルグリセロールになって、小腸で吸収され、吸収されたのち、再度トリアシルグリセロールになる、ということで、グリシドールは脂肪酸エステルになることで消化器官ちゅうに長時間とどまるようになると考えられそうです。

そうすると、エステル結合の加水分解とエポキシの加水分解どっちが早いか、というと、普通に考えると、エポキシが先かなあ?、と感じます。



平成21年7月22日の食品安全委員会新開発食品(第61回)・添加物(第74回)合同専門調査会や平成21年8月24日の食品安全委員会新開発食品(第62回)・添加物(第75回)合同専門調査会において、早急に花王に発売停止を求めずにいたというのは、最悪シナリオ(グリシドール脂肪酸エステルがすべてグリシドールになる)におけるMoE250という微妙な数字もさることながら、こういった科学的な予想でMoEの実質はもっと高い、危険性は意外と低そう、という推測もあったんじゃないかなあ、と思います。
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by river_paddling | 2009-10-30 20:20 | 大学での事
3か月ほど空いてしまいましたが。

今年の共通教育の教養科目では、食品の安全性に関する話題を扱っています。花王のエコナに関して調べなさい、といったレポートを課題にしたところ、典型的には

1.健康食品に発がん性物質がはいっていたなんて、けしからん
2.よくよく調べてみたら、どうもたいしたことなくて騒ぎすぎのように思った

という感じの感想。そうした中で、1日27kgまでは安全とか、270gまでは安全とか、ぎょっとするレポートが3件。

引用先が書いてあって

有機化学美術館・分館のエコナの件
~ここから引用~
 整理しておきますと、グリシドール脂肪酸エステル(水色)には発ガン性はないと考えられます。またグリシドールは、Fischerラットと呼ばれるガンを発生しやすいラットに対し、体重1kgあたり37.5mgを投与するとガンを発生したとのことです。ヒトでは発ガン性が確かめられていませんが、このラットでの数字を適用すれば体重60kgの人が毎日2.25gのグリシドールを摂取するとガンを発生することになります。

 エコナに含まれるグリシドール脂肪酸エステルの濃度は370ppmだそうですので、ガンを発生するために必要なエコナの摂取量は1日約6kg、ざっと一升瓶4本分を飲む必要があるということになります。実際にはこういう食生活を送っている人はあまりいないのではないか、と思います(もし計算が間違っていたらご指摘下さい)。

(追記:計算を思い切り間違ってました。グリシドール脂肪酸エステルは分解してグリシドールになると、分子量が約1/4.5になります。このppmは重量比であるので、これを計算に入れると27kg、一升瓶18本分ということになるかと思います)

 もちろんラットとヒトは違いますから、通常こういう場合動物実験で得られたデータに100倍の安全係数をとることになっています。であるとすると1日60g(訂正:270g)ですから、絶対安全とは言えないかも、というラインになります。まあこれだけ油をとっていたら、いくらエコナが脂肪になりにくくても、ガン発生以前に何か重い病気にかかるのではないかと思いますが。

~ここまで~

薬作り職人のブログのエコナ問題で、花王に足りないもの。
~ここから引用~
a)動物実験から想定される、ガンを発生するために必要なエコナの摂取量は1日27kg、一升瓶18本分。
b)ヒトと動物との間で発がん性に差がある危険性を考え、この100の1量(安全係数)を考えたとしても1日270g。

1日270gエコナをとることは、おそらく普通の生活ではないでしょうから、実質エコナの安全性には問題はないという結論になります。


~ここまで~

でした。

実は、この議論、思い切り間違えています。

何を間違えているか、有機化学美術館・分館にコメントを入れておきましたが、「体重1kgあたり37.5mgを投与するとガンを発生」というのは摂取して害が発生するミニマムを示す量では無いということです。

実際に食品安全委員会の資料のうち当日厚生労働省配布資料[PDF]を見ると、体重1kgにつき37.5mg投与すると生存率が著しく低下し、組織検査で腫瘍が確認されたといった内容の報告がなされています。「生存率が著しく低下」する量を基準に、「ガンを発生するために必要なエコナの摂取量は1日約6kg」と関連付ける、あまりに乱暴です。

20mgでも発がん性ありという報告はありますが、これより少ない投与量でどうなるのかのデータはありません。どのくらいの投与量なら大丈夫と言い切れるか、そういった数値は現時点で人間は持っていません。グリシドールの発がん性は、エポキシ基の開環付加によるDNA損傷と考えられますので、そうすると無毒性量は定義できません。どんなに少量にしても一定の発がんの可能性は残ります。

この次の委員会のDAG 評価書の修正に関する意見によれば、グリシドールのリスクは暴露マージンで考えるべき、という考え方が示されています。

グリシドールについては、仮想的ながらBMDL10を10.2/2.5=4mg/kg と算定。つまり、実験結果をもとに外挿して危険度を推定した、それで行くと、ラットに4mg/kgの摂取をさせると、ガンになる可能性は10%程度ということです。これに対してどれだけの安全性を見越すか、というのが暴露マージンの考え方です。

10000倍の暴露マージンを取れば健康上の危惧が心配されない、これが科学的な安全性の基準になりますから、グリシドールで言うと、一日摂取量0.4μg/kg以下が基準となります。

体重50kgとすると、20μgの摂取。「K 社報告の370ppm のグリシドールエステルから生成するグリシドールは分子量から約80ppm と概算」するとエコナ1g中にグリシドールは80μg含まれます。エコナしかグリシドール摂取源がないと仮定しても、0.25gが安全の最大摂取量ということになり、日常的に食する食品の摂取状態を考えると一定程度の危険性は示唆されることになります。



すなわち、毎日10gのエコナを摂取しているとすると、グリシドール摂取量は0.8mg(800μg)。体重50kgで割って0.016mg。ラットで10%がガンになると推測される4mg/kgに比べると250分の一程度となって、安全というには、かなり微妙になる、そう判断される量になります。



ただし、グリシドールのBMDL10を4mg/kgとすることの妥当性についての不確実性、グリシドール脂肪酸エステルが体内で100%グリシドールに代わってこれがすべて摂取されるわけではない、ということと、人とラットの種の違いが正に出るのか負に出るのかわからない、ということで、追加の検証がなされている、そういった現状だと思います。


はてなブックマークでも、間違いの指摘がないようなので、念のため指摘しておきます。
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by river_paddling | 2009-10-29 19:07 | 大学での事