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松山でアウトドアと園芸&研究

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カヤック漕いだり山登ったり 最近はまった庭弄り    本業は教育と研究ですが。

世論の作り方(アンケート結果の調節)

新聞社の無作為抽出の世論調査で結果が新聞社により全然違うことがあります。何故そんなことが起こるのか、ある一つの事例を元に解説してみましょう。

ここから先は、架空のお話です。

ある大学でAという教材の利用を始めました。Aという教材の利用の実態を調査するためにアンケートを行いました。

B教員の講義で行ったアンケートの結果は?
同じ母集団の学生に対して、「学習内容の理解にAという教材が役立ったか」の設問の解答が
前期では
とても役に立った12%、多少役に立った65%、余り役に立たなかった20%、全然役に立たなかった4%。
後期では
とても役に立った57%、多少役に立った40%、余り役に立たなかった3%、全然役に立たなかった0%。

と、飛躍的に評価が向上しました。

さて、この理由は?
1.前期ではAという教材の利用をほとんどせず、後期の講義ではAという教材の有効利用を進めた。
2.1年を通して、教員が学生の心をつかんで、いいアンケート結果をもらえるようになった。
3.アンケートの設問を工夫した。



タイトルにもあるように、答えは「3.アンケートの設問を工夫した。」です。
実際、A教材の利用頻度は前期も後期も同じだったそうです。
学生との距離感は、こうしたアンケートにどれほど影響を与えるのかよくわかりませんが、後期の方が、多少有利かもしれません。

それでは、どんなアンケート設問にすると、こういった結果が得られるのでしょうか?
まず、設問自体は変えていません。変ったのは設問の流れです。

前期のアンケート調査では

I.あなたは、この授業のA教材をどの程度利用しましたか。
1.良く行った、2.時々行った、3.あまり行わなかった、4.全く行わなかった

II.この授業のA教材は、学習内容の理解に役立ちましたか。
1.とても役立った、2.多少役立った、3.あまり役立たなかった、4.全く役立たなかった


といった設問でアンケートが行われました。

後期のアンケート調査では

I.あなたは、この授業のA教材の利用者登録をしましたか。
1.はい、2.いいえ
II.(IでYesの場合)具体的に、どのような目的で利用しましたか。(複数回答可)
1.定期試験勉強、2.小テスト対策、3.課題・レポート提出のための勉強、4.日常的講義の復習、5.登録したが利用しなかった、6.その他(           )
III.(IでYesの場合)この授業のA教材は、学習内容の理解に役立ちましたか。
1.とても役立った、2.多少役立った、3.あまり役立たなかった、4.全く役立たなかった


といった設問に変更しました。

アンケート評価が向上させるポイントは二つです。
一つ目は回答者を「A教材を利用した学生」に限定したこと。教材を利用していなければ、「A教材は、学習内容の理解に役立」つはずありません。つまり、回答者を限定することで、マイナス評価の回答のみを選択的に無くすことが可能になります。

二つ目は案外見落としがちなのですが、設問の流れです。「どの目的で利用したか?」と問い、選択肢を複数挙げれば、「確かにA教材をあの時利用したな」とか「そういえば今度の試験に利用してみよう」とか、A教材に対して「使った」というプラスの心理を学生に持たすことができます。その上で、「学習内容の理解にAという教材が役立ったか」という設問をすれば、学生のプラス心理に乗っかって、高評価を引き出せる可能性が高くなります。

逆に前期のように「どの程度利用したか」と問うと、全15回の講義で使ったのは数回、「あまり使っていない」というマイナス心理を持たすことになってしまいます。当然「あまり使ってない」から「役立ってない」という印象の流れから、低評価を引き出してしまう、ということです。

一つ目の効果だけなら、マイナス評価を減らせても、プラス評価を増やすことにはなりません。とても役に立った12%から57%への向上は、もちろん学生と教員の関係改善とか、学生のA教材利用に対する慣れとか、別の要因も多少は効いているにしろ、ちょっとした設問の工夫でこれだけコントロールできるということになります。

世論調査も同じ原理が働きます。
「○○総理を支持しますか」の設問の前に、○○総理が具体的にどのような政策を進めてきたのか、プラスイメージを持たす何かがある場合、マイナスイメージを持たす何かがある場合、数十%の支持率の差を生み出す可能性があるということです。

これを余り露骨にやって、「法の改悪に賛成しますか?」とやると真理的反発くらって、逆に結果が悪くなったり、アンケート結果報道の後で世論誘導と叩かれることになりますが、自然な形での印象操作、心理誘導というのは、世論を作って社説につなげるとかの目的では普通にありそうです。
by river_paddling | 2009-01-22 19:43 | 大学での事

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